トップページ 羽化殻 卵寄生蜂
成虫 飼育・孵化・羽化 観察記録 採卵方法
雑記(トンボ) 雑記(他昆虫孵化他)   雑記(野草)
ページ一覧表 その他 English version リンク

 

アカネ属の卵・幼虫飼育

最終更新日2010年8月29日

文が長すぎる場合は青字の部分のみ読んでください.

採卵から孵化まで

確実に孵化する卵を得るためには,産卵中の♀,または産卵に来た♀を捕まえて産卵させます.

ふつう,産卵弁のある腹部の後部を水につけると卵を次々と出します.また,池の周囲や湿地に産卵する種の卵も水中に入れて持ち帰ります.産卵直後のアカネ属の卵の色は白色か,半透明の白色です.卵の色は,産卵から数時間〜1日で褐色に変化します.卵が塊状になっている場合,中心部の卵は酸素不足で,なかなか褐色になりませんので,必要数採卵したら,容器を軽く振って卵が塊状にならないようにして持ち帰り,その後,卵が重ならないようなやや大きめの浅い容器に移しかえておくと,ほとんどの卵が孵化します.卵が塊状になっている場合は塊の中心部の卵が孵化できなかったり,孵化が遅れたりします.2,3日経過しても白いままの卵は孵化しないばかりか,やがてカビが生えることもあり,孵化できる卵の観察がしにくくなりますので,取り除いておきます.なお,卵が褐色に変化していても孵化しない卵もあります.

1:タイリクアキアカネ 2:オナガアカネ 3:リスアカネ(卵が次々こぼれ落ちますので,そのまま容器の水に落としてもかまいません)

アカネ属の採卵の方法
 

トンボの卵の多くには,産卵後,ゼリー状の物質が卵の周囲に現れます.この物質は粘着性があり,卵を他の物に固定させる働きがあります. また,この粘着性のある物質にゴミなどがついて卵をある種の天敵から見えにくくする働きや,小さな生物から卵を守る働きもあるようです.

この卵を取り巻くゼリー状の物質は,アカネ属の中では直接水中に産卵する種(ミヤマアカネ,ネキトンボ,キトンボ,マイコアカネなど)では産卵後数時間で現れ量が多く,湿地や池の周囲に打空産卵する卵が球形に近い種(ナニワトンボ,リスアカネ,ナツアカネなど)では,この物産は産卵後しばらくの間はほとんど目立たなくて,量も少ないようです.

この卵を取り巻くゼリー状の物質があるため,卵は容器に固定され,アキアカネなどの卵を容器に入れたまま卵を同じ向きから継続観察することができます.

採卵にあたっては,近くにきれいな水があればよいのですが,にごった水に産卵させると卵にごみや泥がつき観察しにくくなりますので,卵の写真を撮影したり,観察したりするときは,水道水などのきれいな水を入れた容器を持っていき,その水に産卵させます.いつもポケットに水を入れた容器を入れておけば,捕まえたとたんに産卵をはじめたときなど,あわてずにすみます.大きさはフィルムケース 程度の大きさが適当です.

採卵に持っていく容器

1:フィルムケース 持ち運ぶときに力がかかると,たまにふたが取れて水がこぼれることがありますので,多く持ち歩くときには,少し大きめの別の容器の中にまとめて入れるなどすると安全です. 2:この容器は蓋がねじ式になっていて蓋が偶然開くことがありません.3:この容器にはフィルムケースが7個入ります. 容器にはビニールテープをあらかじめ貼っておき,採卵したときにボールペンでデータを記入します

持ち帰った卵は少し大きめの容器に移しておくと観察しやすいと思います.

アカネ属の採卵容器
 

卵・幼虫飼育容器

下の図は卵,幼虫の飼育用に使う容器です.縦横7cmぐらい高さ4cmぐらいで蓋つきです.卵の場合は蓋をしておきますが,幼虫の飼育では蓋は使いません.なお,ラベルにはビニールテープが便利です.いろいろな色が使えます.
卵や幼虫を飼育する容器
 

きれいな水を入れた容器に卵のみを入れておいた場合は,卵の色の変化や孵化したかどうかは肉眼で見えますが,卵の変化のようすや孵化のようすまでは肉眼では見えません.

アカネ属の卵の大きさは長径が0.4mmから0.6mm前後,短径が0.3mmから0.6mm程度ですので,やはり小さくて,眼点などの確認にはルーペか顕微鏡が必要です.

1:タイリクアキアカネの卵 大きさは約0.61mm×0.43mmです. 産卵から64日経過し他卵です.卵はもう完成しています.卵の周囲の白っぽいのは卵を取り巻くゼリー状の物質です. 2:ナツアカネ 大きさは0.49mm×0.45mmです. 産卵から88日経過した卵です.卵はまだ完成していません.卵の周囲がわずか白くなっているところがありますが,それが卵を取り巻くゼリー状の物質です.まだほとんど目立ちません.

この2種の卵を比較すると,アカネ属でも形,色,卵を取り巻くゼリー状の物質などが異なっています.
アカネ属の卵の例

種によって卵が完成する時期が異なりますが,室内に卵を置いておくと,気温が高いため通常の孵化時期より早く孵化してしまう種がありますので,通常の孵化時期に合わせる必要があるときには卵が完成したころに(たとえばアキアカネでは12月下旬ころ)卵を容器ごと冷蔵庫に入れておき,4月ごろ冷蔵庫から出せば,一斉に孵化します.

 

 

撮影装置

実体顕微鏡と生物顕微鏡は普通に小,中学校で使っているものと同じ程度のもので,よく見えます.

写真撮影できるかどうかはカメラ(デジタルカメラ)が顕微鏡にあっているかによると思われます.下の図はデジカメでトンボ卵に寄生する蜂を撮影しているところです.デジカメの画像ではピントが合っているかどうかわかりにくいので,テレビ画面で確認しています.
トンボ卵を撮影する装置
 
幼虫の写真撮影にはシャーレ(下の図1)が適当です.実体顕微鏡を使うと飼育容器のままでもある程度の撮影はできます.卵の撮影には自作の2のようなスライドグラスを使っています.同じ卵を長期間観察するときは2のスライドグラスを蓋のある容器に入れておきます.
トンボの卵や幼虫の撮影に使う用具
 

ブラインシュリンプを使った飼育

ブラインシュリンプエッグスの孵化

1:ブラインシュリンプエッグスの卵 約0.3mmの大きさです. 2,3,4と変化し 5:幼生 大きさ約0.5mmになります. これをトンボの幼虫に与えます.
ブラインシュリンプ
 

ブラインシュリンプを食べるアキアカネ終齢幼虫

アキアカネ終齢幼虫
 

アカネ属の幼虫の餌はふつうミジンコが使われますが,アキアカネなどアカネ属の1齢幼虫は小さいので,ミジンコは餌としては大きすぎるようです.ブラインシュリンプは小さくて動きも遅いのでアカネ属の1齢幼虫でもすぐ食べることができます.ちなみに,アオイトトンボの場合は孵化した直後の1齢幼虫でもミジンコを食べることができます.

ブラインシュリンプで飼育すると,普通死ぬ率が高い1齢幼虫,2齢幼虫の時期に死ぬ個体が減る(注意深く飼育するとこの時期でもほとんど死なない)ので,大量に幼虫を得るときには有効です.

4齢幼虫以降の餌にはは池ですくってきたミジンコが適当です.ブラインシュリンプは真水では数時間で死んでしまい,水がすぐ汚れるので容器を洗ったりするのに手間がかかります. ミジンコを与える場合はミジンコの多い池を探しておき,ミジンコを掬いにいかなければなりませんが,ミジンコは何日も生きていますので無駄がなく,水が汚れないので水を替えなくてもよく,手間がかかりません.なお,ブラインシュリンプでは,手間はかかりますが,イトトンボ科,モノサシトンボ科,アオイトトンボ科,ヤンマ科,エゾトンボ科,トンボ科のほとんどのトンボの幼虫を卵から終齢幼虫まで飼育することができます.
 

ブラインシュリンプエッグスの孵化装置

ブラインシュリンプは強くエアーポンプを作動させた3%程度の塩水中(水温30℃)では24時間で孵化し使用できます.そのため水槽を30℃の一定温度にしておき,毎日必要量を孵化させ与えます.

下の図は,一定温度にした水槽でブラインシュリンプエッグスを孵化させる孵化装置の一例です.

1:エアーポンプ 2:温度調節器 3:24時間経過したブラインシュリンプエッグスです.多くが孵化しています. 4:ブラインシュリンプエッグスを入れた直後 5:ブラインシュリンプをろ過する装置 6:ろ過したブラインシュリンプを取り出す容器.
ブラインシュリンプ孵化装置
 

熱帯魚を飼育していたときに使用していた器具を使っています.

1:ヒーター 2:温度調節器(3の温度センサーがついており水槽を一定温度にします) 4:エアーポンプ 5:温度計(この温度計は一瞬で水面の温度などが測れます)
ブラインシュリンプ孵化に使う器具
 

1:ブラインシュリンプを孵化させる装置 この容器に3%の塩水を入れ,ブラインシュリンプエッグスをいれて,一定温度(30℃)の水槽中に置くと1日後にブラインシュリンプが孵化します.

2:孵化したブラインシュリンプを取り出す器具で1のブラインシュリンプが入った塩水を上から流すと,塩水は布を通過して下に落ち,ブラインシュリンプは布の上に残ります.

3:容器に真水を入れておき,布の上に残ったブラインシュリンプをこの中に入れる.

4:3のブラインシュリンプの入った水をこの容器に入れ,光に近づけるとブラインシュリンプは集まってくるので,それをスポイトで取り出し,幼虫に与えます.
ブラインシュリンプの孵化装置2
 

上の図の器具のもう少しくわしい説明(塩水をろ過して取り除く器具)

2リットル用のペットボトルを切って作った1の上にそのペットボトルの上部で作った2をのせます. 2の上に2より直径の小さい3をのせます. 3は適当な筒状のものの片方に塩水をろ過する布をビニールテープなどで貼り付けておきます. 布はブラインシュリンプを全然通過させないけれども水は簡単に通過するもが良いのですが,私は使わなくなったTシャツの生地を使いました.

ブラインシュリンプの入った塩水をざっと入れます.3の布の面積が大きいときは短時間でろ過できます.塩分が多いので, 300mlほどの真水をもう一度上からかけると幾分塩分が減るかも知れません.1の容器に,毎日使う一定量の水量を示す目印(図では緑色のビニールテープの位置)をつけておく便利です.

上の図の3の容器にたまったブラインシュリンプは下の図4の黄色の真水を入れた容器中に入れ,ブラインシュリンプを取り出します.容器は3の布をはった容器より直径はやや大きめで,3が4の容器の中でひっくり返せる大きさが必要です.あまり多くの水を入れるとブラインシュリンプの濃度が小さくなりますので,取り出せる範囲で水は少ないほうが良いので,しるしをつけておくとよいと思います.(下の図中4の黄色の容器の白い線)
 
ブラインシュリンプろ過器具
 

幼虫を移動させる

スポイト:幼虫の移動には3齢から4齢幼虫ぐらいまではスポイトを使うのが便利です.

1は口先が狭いので1齢幼虫には使えますが2齢幼虫以降には使えません.2は先が壊れたスポイトを利用して先のほうをとってしまったものですが,やや口が大きくなっているのでミジンコやブラインシュリンプを取り出すとき,または,2,3齢幼虫を移動させるときに便利です.

3も先が壊れたスポイトを利用して先のほうをとってしまったものですが,これが便利で4齢幼虫ぐらいまでこれ1本で十分使えます.ただし,1齢幼虫は小さいので1のように先の細いものが使いやすいと思います.
 
スポイト
 

4齢幼虫以降の幼虫の移動には次のような容器を作って使うと実に便利です.

1:元の容器(直径6cmのプラスチック製のもの,100円ショップで見つけた容器)2:この容器のふたの部分 3,4:ふたの部分にドリルで穴をあけたもの.3の穴は直径3mmで5齢幼虫以降なら終齢幼虫まで使えます. 4齢幼虫はやや小さいので4(穴の直径は2mm)を使うとよいでしょう.
幼虫の移動用器具
使いかた 幼虫の入っている1の容器の中の水を幼虫ごと一気に穴のあいた容器に入れる.2の容器をもち上げると幼虫は穴より大きいので残りますが,ブラインシュリンプは小さいので穴を通って3の容器に入ります.1の幼虫の入っていた容器を軽く洗い,新しい汲み置きの水を入れ,そこに2の容器を入れると水が穴を通ってBの容器に入るので,一気に矢印の方向にひっくりかえすと2にいた幼虫は全部1に入ります.この方法を使えば幼虫を傷つけることなく短時間で移しかえることができます.
幼虫移動器具2
 

アキアカネの1齢幼虫から終齢幼虫までの大きさの比較

アキアカネを飼育してみると羽化するまで何回も脱皮し大きくなっていきます.前幼虫から脱皮した幼虫を1齢幼虫とすると終齢幼虫(次の脱皮で羽化する幼虫)は9齢幼虫または10齢幼虫のようです.はじめのうちは3日か4日ごとに脱皮をしますが大きくなるにつれて間隔が長くなっていきます.アキアカネの1齢幼虫の大きさは約1.1mmで終齢幼虫は約18.0mmです.図中の番号は齢です.
アキアカネ1齢幼虫から終齢幼虫まで
5齢幼虫ごろまでは,餌が十分あれば共食いも少ないので1つの容器に10頭ぐらいは入れられますが,成長の差で2齢ぐらい大きさが異なると短時間で小さい幼虫が食べられてしまうことがあるので,1つの容器に入れる数を少なくしたり,大きいのは別の容器に移したりする必要があります.齢が大きくなるにつれて,容器中の頭数を減らし,最終的には1つの容器に1頭がいいと思われます.